📚 プチファスティングの歴史と科学的根拠

☪️イスラム教：ラマダン（断食月）

期間：イスラム暦の第9月（約30日間）

方法：日の出から日没まで、飲食を完全に断つ（夜間は食事可能）

目的：

• 信仰心を深め、アッラーへの服従を実践
• 貧しい人々の苦しみを理解し、喜捨（ザカート）の精神を養う
• 1年に1回の体のデトックス期間としての意味も

科学的視点：ラマダンの断食パターンは、現代の「時間制限食（TRE）」に類似しており、研究対象としても注目されています。

✝️キリスト教：四旬節の断食

期間：復活祭前の40日間（灰の水曜日から聖土曜日まで）

方法：完全断食ではなく、肉食を避ける、1日1食にするなど節制を行う

由来：イエス・キリストが荒野で40日間の断食を行ったことに倣う

意義：物質的な欲望を抑え、精神的な成長と神への献身を深める期間

西暦100年頃の『ディダケ』（十二使徒の教え）には、週二日の断食習慣が記されており、古代キリスト教徒が定期的に断食を実践していたことがわかります。

🙏仏教：断食修行

方法：過午不食（かごふじき）ー 正午以降は食事を摂らない

目的：

• 煩悩を断ち、悟りへの道を開く
• 食欲という根源的な欲望をコントロールする修行
• 托鉢僧は、1日1食または2食のみで生活

現代への影響：禅寺での修行体験や「宿坊」では、この伝統的な食事法を体験できます。日本の「断食道場」の起源の一つです。

🕉️ヒンドゥー教：断食（ウパヴァーサ）

頻度：週1回、または特定の祭日に実施

バリエーション：

• 完全断食：水も含めて一切摂らない（稀）
• 部分断食：水や果物のみ摂取（一般的）
• 特定食物の制限：穀物や塩を避けるなど

目的：神への献身、願掛け、罪の浄化、身体の浄化

✡️ユダヤ教：ヨム・キプール（贖罪の日）

期間：年に1回、ユダヤ暦のティシュレー月10日（25時間）

方法：日没から翌日の日没まで、飲食を完全に断つ

意義：最も神聖な日であり、1年間の罪を悔い改め、神に赦しを請う日

ユダヤ教では他にも、タムーズの月やアブの月など、複数の断食日が設けられています。

Satchin Panda 博士

ソーク生物学研究所（Salk Institute） 教授

主要研究：時間制限食（Time-Restricted Eating: TRE）とサーカディアンリズム

研究成果：

• 8〜10時間の食事時間枠：1日の食事を8〜10時間以内に制限すると、自然に摂取カロリーが減少（200〜550kcal）
• 体重減少効果：TREを2〜12ヶ月実践すると、有意な体重減少が認められる
• 体内時計の調整：食事時間を制限することで、体内時計がリセットされ、代謝機能が改善
• 10時間の食事制限：臨床研究により、糖尿病や心臓病の予防に効果的であることが判明
• カロリー制限不要：TREは食事内容を変えず、食べる時間だけを制限するため、継続しやすい

柴田重信 教授

早稲田大学 先進理工学研究科 教授

専門分野：時間栄養学、時間生物学、体内時計研究

研究成果：

• 時間栄養学の体系化：「何を食べるか」だけでなく、「いつ食べるか」が健康に重要であることを体系的に研究
• 朝食の重要性：朝食は体内時計をリセットし、1日のリズムを整える最も重要な食事
• 夕食のタイミング：朝食から12時間以内に夕食を終えることで、生活習慣病リスクが低減
• 絶食時間の理想：時間栄養学の観点から、10時間以上の絶食時間が理想的
• 運動とのタイミング：体内時計と運動、食事の相互作用を研究し、最適な運動時間帯を解明

Beneficial effects of intermittent fasting: a narrative review

掲載誌：Nutrients (2023年) | タイプ：ナラティブレビュー（総説）

研究内容：

• 間欠的断食は、カロリー制限と同等の体重コントロール効果を持つ
• グルコースホメオスタシス（血糖値の恒常性維持）が改善される
• 心血管疾患のリスクファクター（血圧、コレステロール）が改善
• 抗炎症作用、抗酸化作用、神経保護作用が認められる

【論文紹介】キャリアを加速する「断続的断食」最新エビデンス

出典：note（2025年6月） | 99件のランダム化比較試験（RCT）を統合したメタ解析

研究内容：

• 隔日断食（ADF）：最も体重減少効果が高く、12週間で平均-3kg
• ADFは中性脂肪とLDLコレステロールも有意に低下し、短期的な心代謝リスクを改善
• 時間制限食（TRE）：継続しやすく、日常生活への影響が少ない
• 効果は個人差が大きいため、自分に合った方法を選ぶことが重要

4：3断続的断食はカロリー制限より減量効果に優れる

出典：ケアネット（2025年5月） | 米テネシー大学ノックスビル校の研究

研究内容：

• 4:3断続的断食：週3日を80%カロリーカット、1年後の体重減は平均-7.6%
• 毎日カロリー制限する方法より、約3kg多く減少
• 血圧、コレステロール値、血糖値も改善
• 毎日カロリー計算せずに済むため、精神的負担が少ない

INTERMITTENT FASTING AND HUMAN METABOLIC HEALTH

掲載誌：Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics (2015年)

研究内容：

• 隔日断食により、総コレステロールと中性脂肪が減少
• がんリスクファクターに対しても有益な効果
• 動物実験では、神経変性疾患の予防効果が確認
• ヒトにおいても、認知機能の改善が期待される

カロリー制限と間欠的断食：脳老化成功のための2つの潜在的食事

Mark Mattson博士の研究（NIH国立老化研究所）

研究内容：

• カロリー制限と間欠的断食は、脳の老化を遅らせる可能性
• アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患の予防に効果的
• 脳由来神経栄養因子（BDNF）の増加により、学習と記憶が改善
• ストレス耐性が向上し、神経細胞が保護される

低炭水化物食や断続的断食による減量メカニズムの解明―ケトン体産生が鍵

東京農工大学 木村郁夫教授の研究（2019年）

研究内容：

• 断続的断食により、ケトン体（β-ヒドロキシ酪酸）が産生される
• ケトン体は交感神経を活性化し、エネルギー消費を増やす
• 体脂肪の効率的な減少には、ケトン体の産生が不可欠
• 48時間前後の断食で、ケトン体濃度が通常の約100倍に増加